田中功起の個展を開催した日本館は、一見すると雑然とした印象を観客に与えたかもしれない。展示室のあちこちにモニターや写真作品が配置され、映像に登場する枕や懐中電灯、本、非常食、壺なども会場に散らばっている。流れる映像は、複数の人々が共同でひとつの課題に取り組む様子を捉え、9人の美容師が一人の髪を切る、多数の人が非常階段を上り下りするなど様々だ。展示に使われている丸太や木材は、前年の「第13回国際建築展」の際に、東日本大震災の被災地である陸前高田から持ち込まれたものを一部再利用している。
未曽有の災害となった2011年の東日本大震災後、日本は世界に向けてどのようなメッセージあるいは問いを発するべきなのか。震災2年後に迎えた本ビエンナーレの日本館展示は、この問いから回避することはできなかったであろう。
ただし、「抽象的に話すこと―不確かなものと共有とコレクティブ・アクト」と命名された田中の個展は、直接震災には言及していない。時に反発し合ったり、歩み寄ったりしながら、少しずつ進む協働作業の様子を収めた映像を通して、「他者の経験を自分のものとして引き受けることはいかにして可能か」というテーマに迫るものとなった。
こうした田中の半ば抽象的な表現は、人々に意識の共有と理解をもたらしたと言えるだろう。日本館展示は、「心に訴えた」という講評とともに特別表彰(special mention)を受賞した。
日本館 展示概要
第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- Encyclopedic Palace
- 総合キュレーター
- Massimiliano Gioni
- 会期
- 2013年6月1日~11月24日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。