日本館は、「円空からはじまる」をテーマに選んだ。生涯12万体の仏像を刻んだとされる円空が、「創造行為の本来的な発生をうながす所在の確認のためのひとつの手本となれば」と酒井忠康コミッショナーは書いている。出品作家は、いずれも木を素材に用いて制作を行う戸谷成雄、植松奎二、舟越桂の3人が選ばれた。
戸谷は、28体の木杭が群れを成す《森》(1987)を出展。それぞれチェーンソーや斧で削られ、めくれあがったり、深くえぐられたりと、1点ずつ異なる表情をもつ。その有機的な形状は木や森、山などの自然風景のように見え、一方で無数の“傷跡”にも見える。
舟越は、《傾いた雲》や《冬の本》といった詩的な題名を付した彫刻7点と、彫刻を制作する際に描いたドローイング3点を出品した。彩色した楠を用いた木彫に大理石の目をはめ込んだ人物の胸像は、どれもメランコリックな表情を湛える。
当時ドイツ在住だった植松は、雑木と布を使った「倒置」シリーズなど4点を出品し、うち3点は屋外に設置した。布でつくられた円錐が先端を下にして吊り下げられており、鑑賞者は天地が反転したかのような違和感を体感する。
3人の作家の個性的な木彫作品が相互に刺激し合う日本館は、円空を知らない海外の観客層にも十分アピールするものとなった。
日本館 展示概要
第43回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- 総合キュレーター
- Giovanni Carandente
- 会期
- 1988年6月26日~9月25日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。