ビエンナーレの総合テーマ「芸術と科学」を酒井忠康コミッショナーはとらえ直し、「人間と物質―自然への回帰」を命題に、若林奮と眞板雅文の2名の彫刻家を選出した。若林は日本館内で展示し、眞板は日本館前の木立の中に作品を設置した。「若林の作品は哲学的な性格をともない、真板のそれは誌的な世界と結びつく」と酒井は述べている。
1980年に続いて2度目の日本館参加となった若林は、館内すべてを使って《大気中の緑色に属するもの Ⅱ》(1985)を出展した。鉄、銅、鉛を用いた立体とドローイングなどで構成するこの大型インスタレーションは、丹沢渓谷の景観に想を得たとされ、自然界の躍動を静的な鉱物で表現した。
眞板は「水と木」を主題に、鉄を素材に高さ6.6メートルの新作《樹々の精》を制作し、日本館前に広がる樹々の中に設置した。ドーム部分に施された有機的な装飾が、木漏れ日によって中央に置かれた水桶の水面に神秘的なシルエットを結ぶ効果を生み、周辺の緑とも良く調和して、自然の美しさを讃えるモニュメントとなった。
日本館 展示概要
第42回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- Art and Science
- 総合キュレーター
- Maurizio Calvesi
- 会期
- 1986年6月29日~9月28日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。