総合テーマは「美術と諸芸術、その現在と歴史」であったが、日本館コミッショナーのたにあらたはこれにとらわれず1970年代以降の日本の現代美術をリードする伊藤公象、田窪恭治、堀浩哉の3作家を選出した。たには、一般に「70年代作家」と称される3名に際立っている点として「素材の造形的結果以前の“表現そのものを喚起し、形成していくプロセス”を大切にしていることであろう」とカタログ・テキストの中で述懐する。
伊藤は、土を素材にした新しい表現を追求し続けてきた作家だ。本展では《起土;焼凍土による》と題したインスタレーションを行った。気温0℃以下で形成される「凍土」を掘り起こし、高温で焼き、その土で館内の64㎡の床を埋め尽くした。伝統的な「陶」の技術を現代美術の文脈でとらえたインスタレーションである。
田窪は、建築家や写真家との共同制作や、歴史的建造物の修復再生など多岐にわたる活動が注目される作家である。本展で発表したのは、レリーフ状に組んだ古木に金メッキを施した作品群だ。カトリックの祭壇を想起させ、古典と現代が交錯する独特の世界観で来館者を魅了した。
堀は常に絵画を制作する傍ら、学生運動や前衛美術運動に参加し、パフォーマンスを行うなど幅広い活動を行ってきた。本展では、4枚組の大作《風の物語へ》を含む、線と筆跡がリズミカルに画面全体に広がる絵画6点を出品した。
伊藤はインド・トリエンナーレに、田窪と堀はパリ・ビエンナーレの参加歴があり、作家たちのこうした経験と国際展への熱意が日本館の展示をより一層充実したものへと導いたと言えるだろう。
第41回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- Art in the Mirror. Art and the Arts. History and the Present.
- 総合キュレーター
- Maurizio Calvesi
- 会期
- 1984年6月10日~9月9日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。