総合テーマ「1968-80年における芸術家の実験と作品」がやや漠然としたものであったことから、コミッショナーの岡田隆彦は「1970年代に現代美術の動向を顕著に示した作家」ととらえ直し、1970年代を振り返りながら、1980年代に向けての展望を感じとりたいという観点もあわせて、榎倉康二、小清水漸、若林奮の3名の作家を選出した。3名とも異なる素材を用いて制作するが、「視覚的表現とは何か、そして何であり得るか」というテーマを独自の方法で具現化している作家であると岡田はカタログの中で述べている。
小清水は、木や鉄、土、石などを素材に制作を行う。本展では、自身が制作した木製のテーブルの上に自然物を配置する「作業台」シリーズや、破いた紙の線を模して木板に掘り込む「レリーフ」シリーズを展示した。
若林は、常に彫刻のあり方を問い続け、鉄を主な素材に制作を行う。意識と外界の距離を測る架空の尺度として「振動尺」という概念を生み出し、本展では「振動尺」シリーズをはじめとする10点を出品した。
前回に続いて2度目の参加となった榎倉は、黒く着彩した綿布の上に薄い綿布をずらして重ねた、幅3〜4.5メートルほどの作品を2点展示した。
「素材において変化に富んだ三人の作品が現代美術の水準を簡潔に視覚化しながら、同時に外国の観客へエキゾチックにさえ映る繊細で微妙なニュアンスをそなえていた」ことが日本館の高評価につながったと岡田は分析してみせた(『朝日新聞』1980年7月21日夕刊)。
第39回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- Experiments and Works of Artists Between 1968 and 1980
- 総合キュレーター
- Luigi Carluccio
- 会期
- 1980年6月1日~9月28日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。
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