この年のビエンナーレの総合テーマ「自然から芸術へ、芸術から自然へ」に沿って、「もの派」の主要作家である榎倉康二と菅木志雄が選出された。コミッショナーの中原佑介は、2作家の作品はともに自然が構造の一部を成していると考え、「自然と芸術を対立するものとしてではなく、互いに浸透しあうものとして捉えている。つまるところそれは、人間と物理的実在との関係を、あるいは物質が人間にとって意味するものを解明しようという企てなのである」とカタログの中で述べている。一方で、榎倉の作品は構造のなかで人間と自然の関係を見せ、菅の作品は事物の重力によって生み出される状態を見せるという対照性もあわせもつ。
榎倉は、廃油を染み込ませた木板を白い綿布に接触させ、液体が物体に浸透する痕跡を作品にした。物体の形が滲み出るように現れた平面の画面と、実物の木板を並列して配置することで、「絵画」からの逸脱を試みるとともに、人間の行為と自然との関係性を視覚化した。
菅は、すべての材料を現地で調達し、樹皮を残したままの木や、切断された木材を組み合わせたインスタレーション《全体の中の一側面(An Aspect as a Whole)》を展開。木片は、切断されたり繋がれたり、置かれたり立てられたりと、「もの」と「もの」、「もの」と「場」との接点や関係性を表現した。菅は、会期中に日本館の前でパフォーマンスも行った。
第38回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- From Nature to Art, From Art to Nature
- 総合キュレーター
- Vittorio Gregotti
- 会期
- 1978年7月2日~10月29日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。