日本画から2名、洋画から2名、彫刻から2名というバランスを念頭に置いた作家人選が行われた後、コミッショナーには瀧口修造が就任した。前回のビエンナーレで新設された日本館という独特の空間で、伝統的な手法による作家から、より自由な表現を求めた作家まで日本の美術を総合的に見せることが試みられ、計48点の作品で展覧会は構成された。
日本画の分野からは前田青邨と川端龍子が、花鳥・山水・仏画などをモチーフに、墨を用いた伝統的手法による作品を主に出品した。一方、洋画からはシュルレアリスムを日本に紹介した画家として知られる福沢一郎と、ニューヨークに移住していた岡田謙三が出品し、また彫刻の分野からは、裸婦像をモチーフにした木内克のブロンズ像や、陶彫による抽象的な表現を追求した辻晉堂の作品が出品された。
結果として、《間隔》や《黒と白》などの新作を含む8点を出品した岡田が、アストーレ・マイエル賞(ジャンル指定がなく優秀作品に贈られる賞)を受賞。東洋的な美意識や日本人特有の感性を抽象絵画に反映させた新たな表現が、高く評価された。
他方、日本画に関しては、東野芳明が「前近代的な日本画が一般の異国趣味と好奇心をそそったにとどまり、専門家には黙殺されたのは冷酷な事実のようだ」と記した(『毎日新聞』1958年6月21日付)。瀧口は、日本画と洋画という対照的な2本の柱が日本の絵画として並立していることの奇妙さは海外では理解されがたく、日本美術の本質的な問題であることを指摘した(“ヴェニス・ビエンナーレ展雑感”(『現代の眼』<国立近代美術館ニュース>1959年10月号、pp.3-4))。
第29回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- 総合キュレーター
- Gian Alberto Dell'Acqua
- 会期
- 1958年6月14日~10月19日
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