日本館は、服部浩之によるキュレーションのもと、美術家・下道基行、作曲家・安野太郎、人類学者・石倉敏明、建築家・能作文徳の4名が協働し、「私たちはどのような場所でどのように生きることが可能か」という問題意識を背景に展示を構成した。
展示室の床中央には、地階のピロティを突き抜く形でバルーンが設置され、それを囲むように配置された4面スクリーンには、下道が沖縄で撮影を続けてきた《津波石》の映像が流された。津波によって地上へ打ち上げられた巨石は、災害の記録であると同時に人々の記憶を留め、また、生き物の棲家となり、自然と文化が混交する特異な景観を生み出してきたという。
会場内に断続的に響き渡るのは、安野による《ゾンビ音楽》である。バルーンに観客が座ることで、館内に設置されたリコーダーへ空気を送り込む仕掛けだ。石倉はアジア各地に伝わる津波神話をもとにした新たな神話を提示し、能作はこうした異なる分野の作品を結ぶ空間構成を担当した。
資本主義がもたらした社会の歪みや、人間の活動が地球環境に与えた甚大な影響が深刻さを増すなか、この年の日本館は、4名の作家による映像、資料、音楽を通して人間と自然災害、人間と地球との関係を問う場となった。
第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- May You Live In Interesting Times
- 総合キュレーター
- Ralph Rugoff
- 会期
- 2019年5月11日~11月24日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。