内藤礼は、1991年の佐賀町エキジビット・スペースでの発表以降、ニューヨーク、パリ、ウェールズ、名古屋でも展示を行ってきた作品《地上にひとつの場所を》を出品し、全館をひとつのインスタレーションに捧げた。各地で高い評価を得たこの大型テントによる作品は、鑑賞者が一人で作品と向き合うことが求められ、内藤本人が1時間ごとに作品状態をチェックすることで成立したが、こうした鑑賞条件は、基本的にヴェネチアにおいても踏襲された。
しばしの静寂の時間を経て、鑑賞者は一人ずつ日本館展示室に入り、テントの入口から内部を鑑賞する。
そこに置かれているのは、種や糸、針金、ガラスなどでつくられた繊細かつ小さな彫刻群だ。女性の身体のメタファーでもある瞑想的な空間の中で、鑑賞者は荘厳な宇宙を感じ、自らの存在と向き合う時間を享受したことであろう。
「この作品はインスタレーションであるが、実は行為でもある。それはエフェメラルな『現象』とでも言えるものである」とコミッショナーの南條史生は述べる。ひそやかではあるが、強靭な作品は「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」という作家の根源的なテーマを体現するものとなった。
日本館 展示概要
第47回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
- 総合テーマ
- Future, Present, and Past
- 総合キュレーター
- Germano Celant
- 会期
- 1997年6月15日~11月9日
- すべてのテキストは当時の情報をもとに構成しています。